Aサンの話

 継続して姿勢の矯正、というか。

 立っていても疲れないとか、シートに深く身を委ねられるとか、視界が広くなるとか。精々その程度だがこの冬購入した防寒着のベストがフィットしてきた感はある。

 私が「この仕事」を教わったのがAサン。スキンヘッドのおじいちゃん。眼光鋭い。ビール腹というか恰幅がいい。一見近寄り難いオーラを纏っているが話すと人懐っこいというか。常に赤ら顔なのは「酒は水みたいなもんだから。でも仕事中は飲まないよ」本当だろうか。何も知らない私に一から教えてくれた。まあ一くらいしかない仕事なのだが。「捕まるとヤバいからさ僕」何がヤバいんだろう。

 余暇は競馬。騎手で競馬を予想する方だった。「そろそろ有年がやると思うんだよね」有年以外の名前を聞いたことはない。スポーツ紙の一段のちっさい出馬表で予想していた。後楽園で仕事上がりに何レースも出来ないのに、足を運び飲みながら打っていた。

 半年経って落札した会社に移籍するときに撤退する会社の責任者さんが誰か引継ぎをという話になり「細かい事できるあなた(私)が仕切ればいいよ」と言ってくれた。まだ入って半年程度の経験しかなく、それがどれほど大変か知る由もなかったのだが。Aサンが控室の真ん中にどっかと座り場の空気が締まる、そんな雰囲気を醸し出す方だった。

 公道でのドライバー歴が無かった私にとって、Aサンの運転はお手本のような所作だった。無駄な事をしないし無駄な感情を乗せない。終始淡々と。作業においても取り立てるほどの目立つことはなく、かつ淡々とするべきことをする、それだけだった。それでいて真似しようとしてもそれは簡単ではなかったので、この仕事は簡単ではないんだな、そう理解した。今ではAサンがやっていたように出来てるとは思うけれど。私のキャリアも「それなりには」長くなった。

 馬鹿正直がなかなか抜けないという「欠点」はある、のだが。

 私が一度その職場を離れ、戻ってきたことがある。Aサンは変わらずそのままだった。変わってしまったのは、私の方。

2014年9月4日
生き甲斐のない、平坦な毎日
社会的にだれからも必要とされることのない日々を送っていると、これでいいのかな、私はこんなでいいのかな、という疑問に、少しだけ苛まれる
でも、私を必要としてください、という風には言えない
そう言わなくてはならないはず、という気がしないでもないのだけれど、それもなかなかそう簡単ではなくて
職場で睡眠障害に薬を用いていることを話したことがあった
というか、話の流れでうっかり、そういうことになってしまった

そんなのさ、酒飲んじゃえばいいんだよ、酒
飲めるよね酒、あなた飲んでたじゃない
あなた酒弱かったでしょ?そんな強くなかったよね
それで寝ちゃえばいいんだよ
医者?薬?そんなの使っちゃダメだよ
それなら寝なきゃいいんだよ
眠くなるまで本でも読んでさ、あなたよく本読んでるじゃない
それでも眠れなかったらTVでも観て徹夜でもなんでもしてさ、そしたらいつか眠くなるよ
それで眠いのを我慢して我慢して、昼休みに一時間でも眠ればスッキリするよ
とにかくさ、薬に頼っちゃダメだよ
なに?どれぐらい眠れないの、一日?二日?二日も丸々起きてれば眠くなるでしょ
三日?それでも酒飲めば眠くなるでしょ
え?医者から止められてる?アル中?その医者ヤブなんじゃないの、あなたのことなんてなにもわかっちゃいないでしょ
医者代えたほうがいいんじゃないの
とにかく薬なんて飲んじゃダメだよ
一日二日寝なくても死にやしないでしょ
薬なんか飲むくらいならお酒のほうが絶対いいよ
あなた焼酎は飲めないの?アレをね、炭酸ジュースかなんかで半々で割って飲むといいんだよ
二、三杯飲めばコロッと眠くなるよ
いつもそうしてるよ
とにかくね、薬はダメ

アル中の、いつも赤ら顔の先輩に、私は、勘弁してください、としか言えなかったな

たとえ、それが成り行き上のことだったとしても
仮に、私がいいお客さんに過ぎないのだとしても
私は先生との信頼関係を壊したくないと思っている
私はことの顛末が知りたいだけなのだ
この不眠症の服薬治療が仮に対症療法的なものでしかないとしても、それが寛解することがあるのだろうか、治癒することなどありえるのだろうか、もし、そうなのだとして、その成り行きに興味があるという、それだけのことなのだ
それはきっとお互いにそのことにしか興味がないという、所詮先生と私の信頼関係なんてそんなものでしかなくて、成り立つも成り立たないもないということなのだとしても、それでも、それでも私は ―――
私は
それでも私は、いったいなんなんだろう
ジプレキサを処方されてるなら喫煙は控えなければならないのだそうだ
そのような注意書きを薬局で貰って、私はその紙っぺらで吸い殻を包んで捨てる
煙草は止められないんだよね
先生に直接言われてないから止めてない、というだけのことで
じゃあ、止めろって言われたら素直に止めるのかといえば、必ずしもそうではないこともあるというだけのことで
お酒は飲んでいないけれど、別に酔いたくないから飲んでいないというだけのことで
なにが信頼関係だか
ちゃんちゃら可笑しい
私はやりたいようにやっているだけなんだ
やりたくないようにやっていないだけなんだ
幼稚だ
止めろと言われれば他の薬をチョイスしてくれるよう、きっとお願いするだけなんだろう
いつだったかの診察で、ジプレキサ合わないようでしたら他の薬に変えてみますけれど、の、変えてみま、くらいまでで誘い水を遮ったことがある
私は効いているけれどいちおう気になる細かい点を説明しようとしただけなのに
またこれだ
どうしてこうなるのだろう
DとEとHでまあまあなものを、DとHとJにしようとする
遮った後、しばらくの間があった

私はあなたのおもちゃじゃないんだからさ

私の無言の意志は先生に伝わっただろうか
もし、伝わっていなかったら、なにがどうだというのだろうか
以心伝心、月に一度顔を合わせるか合わせないかの関係に、そんなものがあるわけないじゃない
今日はもう木曜日だったんだ
とても週の半分を過ごした気がしない
あまりにも起伏に乏しい日常だと、それはそれで時の経つのが早く感じられてしまって、しかたがない

 今読み返すと、その通りだな、と思う。最近の私の睡眠時間の平均値は3時間に満たない程。

 論とは立場の表明であり、解ではない。

 Aサンはよく飲み会をセッティングした。大勢で集まるのではなく。職場近くの中華の2Fとかで食事と酒。飲んでる時のAサンは目が優しくなる。それだけ普段は気を張ってるという事なのかも知れない。この仕事の他に新聞の配送を「おいしい仕事だ」と。酒が抜けてる筈がないのだが。

 住まいは23区のオフィスが立ち並ぶような街で、育ちの良い方だったのかも知れない。「金がない」が口癖だった。

―――

 矯正を施した結果、休んだ後の回復力が上がった。歪なポイントへ働きかけて筋力バランスが「本来の姿」に戻るように「意識・重心を置く」事で副次的作用が働き、便通改善、疲労回復、一番は機能向上。身体個体の持つ能力を如何なく発揮できるようになった。

 髄を整える、って表現ですかね。スマホとか要らないので。姿見使ってください。

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