ひび割れ

 仕事柄軍手を嵌める。嵌めて居る時間が長くなると、乾燥が進む。

 都度ケアしていたのだけれど。

 大晦日、妻に勧められてというか促されて、車の掃除をして何年前に買ったか記憶にないフクピカで拭き上げ終えると、指先が痛んで。よく見ると、親指と中指の爪の付け根がひび割れて居た。

 責任とか、管理とか、そういうものを背負った時、状況が見えなくなって粗雑な振舞いになってしまう事は多々有ると思う。そして、そういう事を一気に肩から降ろしてしまった時も。これは「私が壊れてしまった時の」自己観察の記録に過ぎない。けど、トコトン突き詰めて炙り出した結果、それが何なのかは朧気に解るような気がする。

 気がするだけ、かも知れないけれど。

2013年8月2日
ふと、しばらく髪をカットしてないな、と思って、予約を取った
出来れば朝一を取りたかったのだけれど、既に埋まっていて午後一になった
まあ、アメル飲んでてなあんとか睡眠をコントロールしようとしているぐらいだから、朝一じゃないほうがいいのかもしれないな、とは思ったのだけれど
中途覚醒してしまう
やはり量が足りないのかな、多めに飲んでしまう日があるから処方通りの量だと効かなくなってしまっているのかな
一昨日だってそうだったんだ
2mg飲んで眠れたのはたったの2時間
目の下にクマとしか言いようのないクマをこしらえて行ったものだから、美容師さんの第一声は
"どうしたの、体調でも悪いの、今日は休み?"
である
まあ、悪いって言えば悪いのだろうけど、寝不足で体調が悪いのか、体調が悪いから寝不足なのか、よくわからない
どうしたもんかねえ
"一時期体調悪くしちゃって、仕事辞めちゃってて、まあ大分良くはなりましたけどねえ"
そこからが酷かった
数十年の付き合いになるその美容師さんはいつも通りいろんな話題を振ってくれるのだけれど、以前私が好きだった音楽の話題とか、映画の話題とか、あれこれ、あれこれ、私はそのなあにひとつ知らなくって、生返事を繰り返した挙句、苛々してしまったのか
"私、世捨て人なんで、なあんにもわかんないんだよねえ"
つい本音が出てしまって、彼の顔色が変わってしまった
まあ、実際のところそれは事実なんだ
私は世の中のことに、なあんにも興味がない
特に、一般的な普通の人が当然それくらい知ってるでしょ、というようなことに、なあんにも興味がなくて、なあにひとつついていけない
TVドラマなんて、面白いの?
観ようとも思わない、どうやったって思えないのだけれど
あんなの面白いの?
あれって娯楽なの?
いつも通りにしてもらっている間、すっかり会話は途切れてしまって、私は眠そうなフリをして目を瞑った
なあんにも話し掛けて欲しくなかったというか、話し掛けられるのが、正直辛かった
会計を済ませての帰り際、彼はいつもエレベーターの前まで見送ってくれるのだが、一緒に乗り込んできた
"早く体調治して、仕事見つけなよね"
別れ際にそう言葉を掛けてもらった
嬉しいような、悲しいような
私って、傍目にはそんなに酷い状態に見えちゃうんだね

さて、治るのか、どうか
多分、ただの不眠症じゃないんだろうな、とは思う
でも、もう私は行きたくないんだ
精神科とか、心療内科の類は
山のように盛られる薬代が馬鹿にならないし、あの待合室で順番を待つ間がどうしても嫌なんだ
本当に精神がズタズタのボロボロになってしまった人と一緒に座っていると、正直私はどうしていいか判らなくなる
無性に苛々してしまうというか、程度の差こそあれ、私もその患者さんたちと同類なのだ、ということに絶望してしまうというか、ね
それは現実逃避でしかないのかもしれない
私は違う、認めたくない、しかし実際のところは私も同様である、もしやそうなのかもしれないけれど、一緒にしないでよ、ってついそのように思考が巡ってしまう
そちら側に引き込まれてしまいそうになる、それが嫌、って言ったらいいのかなあ
しかも、それはものすごい引力だから

人はただの動物なんだと思う
ただ、精神面において、ひとたびそれが壊れてしまって、ただの動物以下に成り下がってしまったときに、それを治そうとしてしまうところとか、治ると思ってしまうところとかが、他と違うんだと思う
治んないよ、そんなの
ボタンの掛け違いのように単純なものじゃないからね
臓器の機能が下がってしまったものを修復するのとは違う
脳内伝達物質の働きを促したり抑えたり、それだって、雲を掴むような、手探りの話だから
判ったようなフリしてるだけだよ
何にせよ、孤立してしまった生き物は、孤立してもなお生きていける術を確立する以外に、手がないんじゃないのかなあ
私が今置かれている状況というのは、そういうことなんだろうなあ、と
もし、それが難しければ、無理に生きなくてもいいんじゃないかなあ、って、心底そう思うんだけれど
社会の仕組み的にね、生かされている人がたくさんいる
けれど、本当に、本当の本当に、本当の本当の本当に、そんな必要ある?
それって、ただ単に、偽善なんじゃないの?
2013年8月6日
今日は思ったほど天気は悪くなかったね
ホント、天気予報当たらない
離職に関する諸々の書類を整えるため、まあいわゆる診断書ってヤツを貰うために、病院へ行くことにしていた
精神病院
子供の頃、近所に普通の救急車とは違う救急車が来ることがよくあった
赤色灯ではなく、緑色、緑色灯なのだ
それは精神病院の救急車だった
私たちガキんちょは
"グリーンピーポー"
とか呼んでいたっけ
母は
"あんなのに乗せられるようになったらオシマイだからね"
常日頃そう口にしていた
私が今住まうところで、私がそのようにされているわけではない、けれど、オシマイ、の、オシm、ぐらいまできてるんだろうな、きっと
こんなこと、親が知ったら、きっと嘆き悲しみ、罵倒されるのだろうね

ネットで調べた病院のリスト、片っ端から電話を掛けて
"初診の方はお盆休み明けぐらいになりますね"
とか
"早くても8月の終わり頃ですかね"
とか、そんなのばっか
ホントに儲かってんだね、精神病院って
駅から遠くのちょっと不便そうな所にある病院が
"今日でも大丈夫ですよ"
と言ってくれたので、そこに行った
不眠の症状とか、薬の量とかを説明したら
"ちょっとウチでは対応できないですね"
と言われてしまった
"他の病院を紹介しますから、そちらで診てもらってください"

オシマイ、の、オシマ、まできたか、な
何ゆってんの、一度完全にオシマイになってんじゃん、アンタ
私は薬物中毒、薬物依存症なのだそうだ
その紹介された病院で、そのように言われた
ロヒプノール5mgとか6mgとか飲まないと眠れないのは、そうなのだそうだ
まあ、思い当たるフシはある
というか、私は以前完全なデパス中毒者だった
それで一度オシマイになった
それから5年か6年かが経ち、一度はちゃんと社会復帰できたのにね、まあ、一度オシマイになった人は、ちょっとバランスが崩れてしまえば、いとも容易くそこへ戻ってしまうんだろうね
そのまんまだとちょっとマズいというか、多分通らないらしいので、若干配慮した書類を書いてもらった
金儲けのためなら何でもやる、ってか
処方されたのは、ヒルナミンにセルシンにサイレース、終わってる終わってる
ってサイレースってロヒプノールと同じじゃん
金の亡者に毒盛られてるだけ?
別に、私はそんなこと気にも留めてない
笑い話ぐらいのもんでしょ、中毒者とか、依存症なんて
この世に溢れてんじゃん
パチ・スロ中毒、ギャンブル中毒、ニコチン中毒にアル中、覚醒剤に大麻に合法ドラッグ、過食症のデブとか、セックス依存とか、ゲーマーとかアニオタとかAKBとかさ
ギリギリだよね、何にしても
山登りが好きとか、走るのが好きとか、一見健康そのものそうなそれだって、私に言わせりゃただのマゾなんじゃないの、って思うし
グライダーの類とか、ロッククライミングとかさ、高所恐怖症の私からすれば、キチガイとしか思えないし
それに、全然関係ないけど、アレ、鉄ちゃん
別に好きで好きでしょうがないんだろうから別に構いやしないんだけどさ、私は全く理解できない
アタマどうかしてんじゃないの、って思う
人ってさ、何かに夢中になりたいんだろう、と思う
何かに溺れたいんだろう、って
生きる時間が途方もなく長すぎるから、そうでもしなきゃやってられないんだろう、ってね
まあ、オシマイの人でしかない私がとやかく言うことじゃないよね
スミマセンでした

2013年8月13日
今、朝の3時を回ったところだ
今、私は起きていて、眠くなく、眠ろうともせず、眠りたいとも思わず、そして、なあんにもすることがないから、独り言でも書こう、と思った
昨夜はヒルナミンとセルシン、そしてサイレースのセットを服用しなかった
よくよく考えてみれば、なあんにもすることがないこの私が眠る必要って、全然ないんだよね
私は薬物中毒者だから、薬物なんて口にしない方がいいのかもしれないな、って思った
私自身が私をコントロールする必要なんて、ないのかもしれない、って思った
離職票が送られてこないので、ハローワークに申請にも行けない
¥3,000も払って診断書送ったのに、これじゃいつまでたっても失業給付受けらんないじゃん
別に、私なんかどうだっていいんだろうなあ
もうお盆休みの時期だしね、ずっと先に、後回しにされちゃうかもしんないね
随分前に田舎から送られてきた銘酒の三本セットの三本目を開けた
最近、私は急に酒に酔わなくなった
ちょっと前までは缶チュー一本で顔真っ赤になったのにね
不思議だなって思う、というか、こんなことってあるんだね
急に私の身体がどうにかなってしまっているのかもしれないけど、それはそれで大歓迎、なんだけど
いいお酒だからなのかもしんないね
日本酒って美味しいなあ
お刺身とかのおつまみがあれば最高なんだけどさあ
別に食欲も何もないし、今の時期はお刺身って、ちょっと、ね
何て自堕落な生き方なんだろう、って思う
でも、今のところ、今のところね、それが
"とりあえず"
とりあえず許されている私は、まだ幸せなほうなのかもしんない
でも、私はそんな私自身が許せなくもある
何やってんだろう、って思う
何やってんだろう、って思うんだけれど、そこから先が何もない
こうすりゃいいんじゃないの、っていうのが、何もない
普通、何とか仕事探して、働いて、って思うよね
日銭でも安月給でも何でもいいから、とりあえず何か、って思うよね
でも、今、私は病んでいるから、そうしちゃいけないんだ、って思う
どこかに勤めたって、どうせ長く続かないんだろう
そういう他人の手を煩わせるような、余計なことしちゃいけないんじゃないかな、って
滅茶苦茶だよねえ

あの日、突然私を降格させて、減給させて、配転させたアイツ、ぶっ殺してやりたい
切り刻んで、バラバラにしてやりたい
私は意気地なしで、生憎多少なりの自制心も持ち合わせているから、きっとそんなことはできないだろう、しないんだろう、けれど、会うつもりなんか更々ないけど、もし、どこかでアイツに出くわしてしまったら、私の手指の骨が砕けちゃうぐらいの勢いでぶん殴っちゃうと思う
不っ細工なアイツの顔を、より不っ細工にしてしまうんだけなんだろう、と
それって、ツマンナイよねえ
退屈
私は人間社会というややこしいことこの上ない世界に身を置いているけれどさ、それ以前に一動物なんだよね
もっと、もっと弾けちゃってもいいんじゃないかなあ
後先のことなんて考えずに、さ
それぐらいに、私はアイツのことが許せない
逆恨み
私はかなり頭のオカシイ病んだキチガイだから、そういうことを考えちゃうんだろうね
こんな真夜中に小一時間も掛けて、何書いてんだろうね
呆れちゃうよね

2013年8月16日
私はタバコを猛烈に吸う
ニコチンだってれっきとした薬物で、けれど薬物中毒といえばそれはちょっと大袈裟なのだろうね、いわゆる単なるヘビースモーカー、の類である
故に、この夏場においても、時々空気の入れ替えをしないと、部屋の中が煙って煙って、仕方がない
それで、一昨日になるのかな、窓を開け放ち(もちろん網戸はちゃんと閉めてたけど)、ブラインドを全開にして空気の入れ替えをした
匂いが染み付いていて、大して入れ替わりもしなかったけれどね
突然、一匹の蛾が、部屋の中に紛れ込んできた
私は猛烈に虫の類が嫌いなんですよ
所謂、虫酸が走る、というやつですね
蕁麻疹が出るくらいに、体が拒絶します
それが、私の後頭部を掠めた瞬間、私は気が狂った
気になって気になって、もし寝ている間に私の顔面にそれが止まろうものなら、多分私は発狂してしまうだろうから、真夜中だろうが、何だろうが
それぐらいに嫌いだから、絶対に仕留めてやろうと思って部屋の片隅に寝転がり、そのたった一匹の蛾を二時間ぐらいだろうか、無我夢中で追い続けたのだけれど、とうとうそれを見つけることはできなかった
そのことが気掛かりで仕方なかったから、二時間しか眠れなかったのでもないのだろうけれど、さ
昨日の昼間、それが再びヒラヒラと私を挑発するかのごとく飛び回るのを見つけて、私はそれから目を離すことなく、ティッシュペーパーを手にし、それを一発で仕留めることができた
心底、ホッとしたんだよね
私は昨日一日、窓を開けなかった
とてもじゃないけど開けられなかった
ホント、気持ち悪くってさ
ヒルナミンとセルシン、そしてサイレースのセットを早めに放り込んで眠りについたのだけれど、一時間半、たったの一時間半しか眠れなかった
完全に騙されてるよね、私
目を覚ましたその瞬間に、私の眼前を一匹の蛾がヒラヒラと飛び回っていた
昨日仕留めたはずなのに、何で?
私はベッドから飛び起きて、そのふざけ切ったヒラヒラの動きを無我夢中で追った
目を離してなるものか、でなければ、私はまた、この真夜中に、周りの迷惑などお構いなしに発狂してしまうリスクを負わなければならないから、さ
一昨日より集中していたのか、ちょっと動きが緩慢だったのか、私は数分足らずでそれを仕留めることができた
心底、ホッとした
私が虫の類が大嫌いなのには、それなりに理由がある
子供の頃、私はアレルギー体質で、蕁麻疹やアトピーが酷かった
おまけに蚊に刺されやすくって、親には掻いちゃだめ、ひたすら我慢しなさい、なんてことを他人事のように言われたものだけれど、あのね、痒いものは痒いんだよね
おかげで、掻きむしった私の全身は瘡蓋だらけで、それがコンプレックスでもあった
周りの子は皆綺麗な肌をしてるのに、私の肌はボロボロで、ステロイドを全身に塗るのが嫌で嫌で仕方がなかったし、気が滅入ったし、自然と気後れする様になってしまった、し
目障りで気持ちの悪い虫たちなんて、いなくなっちゃえばいいのに、この世から
人は殺しちゃいけないのに、虫たちはぶっ殺してもいい、って、ちょっとおかしい気もする
私が殺したい人、虫たちの数ほどではないにしても、何人もいるんだけどさ、なんでダメなんだろう、ね
それから小一時間が経過したのだけれど、それを仕留めるに至った過程での興奮が収まらない
また、今夜も眠れないんだろうなあ
正直、もう諦めてるよ

―――

 此の所、立ち姿、立った時の姿勢に気を配っている。特に、朝起きて直ぐ。肘を少し引き肩甲骨を寄せて、目線を高く保ち、ピン、と弓を張るように。

 謹賀新年。

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